■たわごとですかーっ!!■



▼【秋は運動会】 05/10/11

季節はすっかり秋であり、秋と言えばスポーツの秋であるが、その代表的なイベントとして運動会があるのではないか。
運動会の思い出と言えば、陣地取りがある。陣地取りと言っても競技ではない。運動会を見るためのスペースを確保するのである。花見の陣地取りと思っていただいて差し支えない。
その任務は親父が一手に引き受けた。早朝ござを持って現地へ行き、陣地取りをしてくるのだ。

昼休み、そのござの敷かれた陣地に家族5人全員が集まり弁当を食べる。
このとき、思いも掛けない事態が起きた。
「おぃ、こらーっ!」
どこからともなく怒鳴り声が聞こえる。それは次第に近付き、気が付けばすぐそこまで来ているではないか。見ればサングラスを掛けた、いかにも「ボクはやくざですよ」とでも言いたげなおっさんである。困ったことに、その怒りの矛先は明らかにこっちに向いているのだ。
弁当を食べるオレたち家族に向かってそのおっさんは肩をいからせている。その状態から分かることは、けっしてオレたちに好意を持っているわけではないと言う事実であり、だからと言って、食べている卵焼きを狙っているわけでもないと言うことはあきらかだ。
とてつもなくあきらかだよ。

その男は眉間にしわを寄せながら、こう言った。
「おいこら、ここはおまえらの場所か?」
いきなりのことに一瞬事態が飲み込めなかったが、どうやら男は質問しているようである。しかし、質問の仕方がちょっと普通ではない。
ふと、学校のグランドにも縄張りでもあるのだろうかと、子どもながらに思ったが、相手が相手だけに口答えなどできるわけもない。
「おい、聞いてんのか?ここはおまえらの場所かって聞いてるんだよ」
男はさらに興奮して言う。
これ以上黙っているわけにはいかないだろう、そう思案した親父は仕方なさそうに、こう答えた。
「そうだ」
きっぱりである。
きっぱりだが、妙に気の抜けた親父の返事に男も少々気が削がれたようだったが、それでもなお、言い掛かりを付けてくる。しかし、親父は、頑として「ここはうちの陣地だよ」と聞かない。
どのくらいそんなことを繰り返していただろうか、ようやく男は諦め、去っていった。
ほんとに困った人がいるものである。オレはホッと胸を撫で下ろした。
そのとき親父は一言ボソッと言ったのだ。
「ああ良かった、ばれなくて」
親父の言葉にオレは我が耳を疑った。
聞けば実のところ、その陣地はまさにその男の陣地だったらしく、親父が陣地取りに来たときに、誰かがすでに敷いてあったござを引っ剥がし、そこに自分のござを敷いたらしいのだ。その証拠に、ござを剥がすとあのおっさんのものらしい名前がしっかりと書かれていた。
なんてちゃっかりもんなんだ。
どうやら一番困ったひとは、この親父だったのです。

またいつあいつが戻って来るかわからない。この時ほど、自分がいま子どもであることを悔しく思ったことはなかっただろう。
なにしろその事実を聞いてからと言うもの、運動会が終わるまで気が気じゃなかったのである。

この季節に思うそんな甘く切ない運動会の思い出だが、北海道の運動会は、春じゃなかったっけ。

byクムラ〜



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