■たわごとですかーっ!!■



▼【投げたいから投げる】 03/07/19

相撲には注目の一番と呼ばれるものがある。
その日、最も盛り上がるであろう、期待の一番である。
そして、その注目の一番で観客が期待するもの、それはたいていの場合、波乱である。
波乱とは、思いも掛けないことが結果として現れることに他ならず、例えば、まわしが取れるとか、カツラが取れるとか、そのようなことを言っているのではない。
それは期待と言うよりも、むしろ、やだよ、そんなのは…

相撲における波乱、それは、格下の力士が格上の力士に勝つと言うことに尽きるだろう。
したがってそれは、横綱が勝って当たり前と言う前提の上で成り立っており、そう言う意味において、横綱の責任と言うものは計り知れないものがあるのである。

さて、その注目の一番である。
平幕力士が横綱に挑戦するのである。
そして、なんと勝ったのである、平幕の力士が横綱に…
波乱である。
その平幕力士が、現在上り調子の人気力士であったなら、なおいっそうその盛り上がりは最高潮に達する。
なにしろこの世とは思えないほどの盛り上がり様である。
これが波乱というものなのである。

波乱に付きものと言えば、やはりこれだろう。
座布団投げ。
観客が興奮のあまり、座っていた座布団を土俵に向かって投げるのである。
しかし、いくら波乱だと言っても、あまり早い取組で座布団を投げてはいけないのではないか。
なぜならば、その後、座布団どうするんだよ。
座る座布団がなくなっちゃうのである。そうなるともういけない。足がしびれて、相撲観戦どころの話ではなくなってしまうのである。
要注意である。

なにしろ、波乱が起きれば、眼前には紫色の座布団が舞う。
くるくる回転し、それはまるでフリスビーの様でもある。
しかし、オレには座布団がない。なぜなら椅子席だからだ。非常に寂しいが、だからと言って、イスを投げる分けにもいかないだろう。ここはプロレス会場ではないからだ。
したがって、ただ傍観するしかないのだが、上から眺める紫の座布団の舞いもまた、壮観なものである。

見ると、座布団を主に投げているのは枡席の客である。けっして砂かぶり席の客は投げない。
なぜだ。砂かぶりと言えば、特等席なはずだろ。
その秘密は、土俵までの距離にあるのではないか。
砂かぶりから座布団を投げても見なさい。
人々はその人に向かって言うだろう。
「あっ!おまえ!」
しかも、指まで指される始末である。
したがって、砂かぶりからの座布団投げはとても無謀な行為なのである。

しかしながら、砂かぶり席はかなり良い席である。選ばれた人間しか座ることができないのではないか。
だが、この様に、座布団が投げられないと言う難点があるし、その上、飲食までできないと言うではないか。そんな、とんでもない欠点も有り、そう言った面から考えると、必ずしも砂かぶりは特別良い席とも言えないのではないか。
だけど、一度は座って見たい気もするのである。
選ばれしものの席だからだ。

そんなことより、座布団である。
とにかく、いつまでも座布団は宙に舞っている。すでに弓取り式が始まっていると言うのにだ。
そんな中で弓取り式を健気に行う力士。しかしいま、観客は弓取り式などどうだっていいのだ。なんだか不憫だが、それが座布団投げによる集団心理であり、つまるところ、みんなストレスが溜まってるんだなあ。

見ると、皆、気軽に座布団を投げているようだが、座布団だと思って舐めてはいけない。遥か頭上からかなりの加速をもって飛んで来るのだ。それが頭に当たったら、いったいどうなることだろう。
首が飛ばないまでも、首がグキッ!とくらいはするのではないか。
首がグキッ!は想像しただけでもかなり危険と言えよう。

そんな心配をしていると、この期に及んでまだ座布団を投げようと構えている者がいる。見ると子供だ。何か嫌な予感がしたが、座布団投げに年齢制限が有るわけではない。
そう思った瞬間、その子供は力一杯、座布団を投げた。
そして、オレはその座布団の行く先を目で追った。
しかし、目で追うまでもなく座布団の行き先は、すぐ前のおじさんの後頭部でした。
いきなり、後頭部を座布団で直撃である。
何事が起こったかと、目を白黒させるおじさん。

冷静に考えて見れば、その子供は凄いことをやっているのではないか。
なにしろ、見ず知らずのおじさんの後頭部に、至近距離からいきなり座布団だからだ。
なんと気の毒なおじさんだろう。

しかし、ここでは許される。
ここは座布団投げの無法地帯だからだ。

byクムラ〜


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