◆ああ、栄光の初ドライブ
労して取った車の免許、だがしかし一度も補習など受けなかったそのドライビングセンスをついに見せつけるときがやってきた。と言っても親父にだが、、、

ある日の夜、親父の運転する車の助手席に乗っていた。「どうだ、運転してみるか?」と親父がニコニコしながら言う。きっと、息子が一人前に車を運転できるまでになったのを喜んでいるのである。
オレは心の底の不安とは裏腹に、さも、どうってことないような素振りで「いいよ」と気取って言った。そしていつもは親父に握られているそのハンドルをオレが握る。安心しきった満足げな顔でニコニコする親父。そのとき一つの不安が頭をよぎったような気がするのだがそれがなんだか分からない。

教習所で習った要領で、さあ発進。
数十メートル行った先の交差点で右折、「うん、調子いいぞ」、と思ったその瞬間、いきなり「止まれ!」と言う親父のでかい声。見るといままでニコニコしていたはずの親父の顔が固まっている。ふと後ろを見るとなぜか大袈裟に回転灯を点滅させたパトカーがいるではないか。
オレはその状況をすぐにはなかなか理解することができなかった。まもなく警察官が降りて来た。「おにいちゃんダメだよ〜、ライト付けなきゃあ、しかも交差点に横断者がいたんだよぉ、ちゃんと停止しなきゃあ。あれ、まだ免許取り立てじゃないの、初心者マークは?」と、まるで鬼の首を取ったかのようにまくし立てる。

そう、あのとき頭をよぎった不安、それは夜の運転、今日が始めてだったのである。教習所での教習もすべて昼間。だからライトなど付けたこともない。

かくして初ドライブ、走行距離、数10メートルにして、無灯火、歩行者妨害、初心者マーク貼忘れという、燦然たる前科3重違反の烙印は押されたのである。